2026年のハロウィン、10月31日は土曜日です。仮装を楽しむ人が街にあふれる夜、その上空や街角では、もうひとつの主役が静かに働いています。人の数を数え、危険な混雑を事前に見つけるAIです。
きっかけは、2022年に韓国・ソウルの梨泰院(イテウォン)で起きた群衆事故でした。あの夜、危険の兆しは事故のずっと前から現れていました。この記事では、ハロウィンの監視AIが「何を見て、どう判断し、どこまで見ているのか」を、公式発表と研究データで徹底解説します。後半では、Claudeを使ってあなた自身が群衆の危険を知り、身を守る方法も紹介します。
梨泰院では、事故の約3時間40分前に「押しつぶされそう」という最初の通報がありました。危険は事前に見えていたのです。この教訓から、ソウル市はAIが映像から人の密度を自動で数えるカメラを街に広げ、今年の梨泰院では約2,550人の体制とAIの混雑判定を組み合わせています。
監視AIが数えるのは「誰か」ではなく「何人か」。そして最後に動くのは人です。あなたも、混雑の危険な目安と身の守り方を知っておけば、ハロウィンの夜をもっと安心して楽しめます。
01梨泰院の教訓:危険は「事前に」見えていた
2022年10月29日の夜、梨泰院の幅4メートルほどの坂道の路地で群衆事故が起き、159人が亡くなりました。韓国警察の調査によると、事故が起きた午後10時25分ごろ、路地の密度は1平方メートルあたり10.74人に達していました。
この事故を分析した論文が、2024年に学術誌PLOS ONEに掲載されています。携帯電話のデータと警察への通報記録から当日の流れを再現したもので、事故の前から危険のサインが続いていたことが分かります。

最初の通報から事故まで、約3時間40分。危険のサインは何度も届いていました。足りなかったのは、あちこちから届く情報をまとめ、危険の大きさを数字でつかみ、すぐに動く仕組みです。論文も、携帯電話のデータで混雑の危険を監視することや、通報に素早く対応することを提言しています。
02監視AIの仕組み:「何人か」を数えて、危険を段階で判定
群衆事故を防ぐAIの役割は、とてもシンプルです。決まった広さの中に何人いるかを数え、危険な密度に近づいたら知らせる。そのために、いくつものデータを組み合わせます。
人が1平方メートルに何人いるかは、群衆の安全を考えるうえで世界共通の物差しです。英国の群衆安全の専門家、G・キース・スティル教授の資料では、立ち止まった群衆の場合、1平方メートルあたり5人が上限、6人で高リスクとされています。日本でも、2001年7月の兵庫県・明石歩道橋事故では、歩道橋に1平方メートルあたり13〜15人が密集し、11人が亡くなりました。
| 1㎡あたりの人数 | 群衆の状態 | 危険度 |
|---|---|---|
| 1〜2人 | 自由に歩ける | 安全 |
| 4人前後 | 自分で進む方向を選びにくくなる | 警戒 |
| 5人 | 立ち止まった群衆の上限とされる密度 | 上限 |
| 6人 | 踏ん張りにくく、倒れやすくなる | 高リスク |
| 10人超 | 梨泰院(10.74人)、明石(13〜15人)の事故時の密度 | 極めて危険 |
監視AIは、この物差しをリアルタイムで当てはめる道具です。人の目では「混んでいる」としか分からない状態を、「この場所は、あと何分で危険な密度に届きそうか」という数字に変えてくれます。
032026年の梨泰院:AIと2,550人の合同体制
事故から4年。ソウル市龍山区(ヨンサング)は2026年のハロウィンに向けて、テクノロジーを総動員した安全対策を発表しました。韓国の英字紙The Korea Timesが伝えています。

AIは「何を」見ているのか
対策の中心は、複数のデータを1つにまとめて混雑度を判定する仕組みです。記事によると、知能型の監視カメラ、龍山区のリアルタイム・スマートマップ、地下鉄駅の到着人数、ソウル市のリアルタイム都市データ、行政安全部の群衆通知システムの情報を統合し、4段階の混雑指数で判断します。基準を超えると、統合管制センターがすぐにカメラ映像を確認し、現場に指示を出します。

AIの役割は、人の代わりに判断することより、「危なくなる前に、人が気づける」ようにすることです。集めたデータで混雑の兆しを早くつかみ、最後の判断と行動は管制センターと現場の人が担う。この役割分担が、梨泰院の教訓から生まれた形です。
04ソウル市の挑戦:AIカメラ1,086台と「生成AI」の監視
梨泰院の事故を受けて、ソウル市は街全体の仕組みを変えてきました。韓国紙アジア経済によると、市はカメラの映像をAIで分析して人数を数える「知能型の人数カウント」に切り替え、2025年の年末年始には25区の91か所に1,086台の群衆検知カメラを配置しました。
精度も上がっています。ソウル市の発表(2026年2月)では、誤った検知から学習を重ねた結果、知能型カメラの検知精度は36%から81%に向上し、月454万件あった誤報が35万件に減ったとしています。

さらにソウル市は2026年10月12日、人の密度・歩行者の流れ・交通量のデータを集めて分析し、警察や消防と共有するための条例改正を発表しました。個人情報保護のルールに沿って運用するとしています。数えるAIから、状況を読んで人の判断を助けるAIへ。ソウル市の取り組みは、監視AIの進化の方向をよく表しています。
05日本はどうする?渋谷の規制とAIカメラ
日本でハロウィンの人出といえば渋谷です。警視庁渋谷警察署は、2026年10月30日(金)夕方から11月1日(日)早朝まで、渋谷駅周辺で交通対策を行うと発表しています。


渋谷区も9月30日、「GOODBYE BAD HALLOWEEN(グッバイ・バッド・ハロウィーン)」を掲げた対策を発表しました。主な内容は次のとおりです。
| 対策 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 警備 | 警備員を30日に約60人、31日に約125人配置 | 日本経済新聞 |
| お酒 | 路上飲酒禁止エリアの販売店62店舗に酒類販売の自粛を要請 | テレ東BIZ |
| 電動キックボード | LuupとLimeの駅周辺ポートを、両日午後5時から翌朝5時まで利用停止 | 日本経済新聞 |
| ごみ | ポイ捨て巡回員を通常の約4倍に。見つかれば2,000円の過料 | Business Insider Japan |
| 多言語 | 英語・中国語・韓国語でも呼びかけ | 東京新聞 |
渋谷でも、AIカメラが人の流れを数えている
渋谷駅周辺では、2023年7月から約100台のAIカメラによる人流計測が始まっています。運営するインテリジェンス・デザイン社の発表によると、カメラは人数や移動の方向、滞在時間を計測し、ハロウィンやカウントダウンのような混雑時には警備員の配置の最適化に役立てるとしています。
同社の発表では、データに個人を特定できる情報は含まず、映像は解析後すぐに削除して保存しない仕組みと説明されています。「誰か」ではなく「何人が、どちらへ」を数えるのが、群衆の安全に使うAIの基本です。
06監視AIとプライバシー:「誰か」を見るAIと「何人か」を数えるAI
「AIに監視される」と聞くと、顔を見られて記録されるのでは、と不安になる人も多いはずです。ここで大切なのは、監視AIには2つのタイプがあることです。
ハロウィンの群衆を見守るのは、主に「数えるAI」です。渋谷のAIカメラは、運営会社の発表で個人を特定する情報を含まず、映像は解析後すぐに削除すると説明されています。ソウル市も、個人情報保護のルールに沿ってデータを共有するとしています。
一方、「見分けるAI」には世界で厳しいルールが作られています。EUのAI法では、公共の場所で警察がリアルタイムに顔などで個人を識別することを、第5条で原則として禁止しています(行方不明者の捜索など限られた場合に、事前の許可を得て認める)。この禁止事項は2025年2月2日から適用されています。
- 何を数えているか:人数や流れだけか、個人を特定しているか。
- データの扱い:映像を保存するか、すぐに消すか。誰と共有するか。
- 最後に判断するのは誰か:AIは知らせる役、動くのは人。この役割分担があるか。
07実演①:Claudeで「群衆の危険な目安」と身の守り方を調べる
ここからは、Claudeを使って、あなた自身が群衆の危険を知り、身を守る準備をします。まずは、Claudeのウェブ検索で、危険な密度の目安と、危ないときの行動を調べてもらいました。
Claudeは、群衆安全の専門家の資料や明石歩道橋事故の調査を出典に、密度ごとの危険度を7段階の表にまとめました。行動の5つは、どれもすぐに覚えられる内容です。
群衆の安全のような専門的なテーマも、「信頼できる資料で」「出典付きで」と頼むだけで、根拠のある答えが手に入ります。出かける前に一度読んでおくだけで、いざというときの動きが変わります。
08実演②:Claudeで「今年の渋谷のルール」を確かめる
次は、出かける前の情報収集です。Claudeのウェブ検索で、今年の渋谷の公式発表を調べて表にまとめてもらいました。

Claudeは警視庁のページを直接読み込み、規制の期間や駐車の注意点を正確に表にしました。さらに、ハチ公像の仮囲いや喫煙所の閉鎖、改札が閉まる可能性まで拾い、最後に「出かける前に、警視庁・渋谷区・鉄道会社の当日案内を確認して」と添えています。
回答の冒頭で、「渋谷区の公式ページは検索で見つけられなかったため、区長会見を伝えた報道で補った」と、情報の確かさの度合いを自分から説明していました。どこまでが公式で、どこからが報道かが分かるので、自分で確認すべき点がひと目で分かります。
09AIが関わるもうひとつの変化:激安コスプレの偽ショップ
ハロウィンが近づくと、SNSの広告に激安の仮装セットがあふれ、その中に代金を払っても商品が届かない偽の通販サイトが混ざります。消費者庁も2026年8月4日、格安をうたう偽の通販サイトに注意を呼びかけました。
背景には、ここでもAIがあります。マイクロソフトは報告書「Cyber Signals」第9号で、AIを使えば偽のECサイトを数分で開設できると警告しています。トレンドマイクロは、ChatGPTやGeminiの回答から少なくとも422件の危険サイト(偽ショッピングサイトを含む)への誘導を確認したと発表しました。

身を守るコツは、買う前に広告文をClaudeに見せることです。説明用に作った「危ない広告文」の見本を見せると、Claudeは「本日まで」「個人名義の口座」「会社概要:準備中」など、6つの危険なサインをすべて指摘しました。

急がせる言葉ほど、ひと呼吸おいてAIに見せる。事業者名・住所・電話番号の表示(特定商取引法にもとづく表示)がなければ買わない。代金を払ってしまったら、消費者ホットライン「188」や国民生活センターに相談しましょう。
10AIのプロの見解:監視AIは「人を守る見張り役」になれるか
私たちAQUAは、日々ChatGPTやClaudeを業務に使う立場から、ハロウィンの監視AIを「データで人の命を守る、とても健全なAIの使い方」と見ています。梨泰院の夜、危険のサインは3時間以上も前から届いていました。AIの価値は、そうしたばらばらのサインを1つにまとめ、危険の大きさを数字で示し、人が早く動けるようにすることにあります。
ソウル市が精度を36%から81%に上げ、誤報を大きく減らしたように、監視AIはまだ成長の途中です。だからこそ、「誰か」ではなく「何人か」を数えること、データの扱いを公開すること、人が最終判断をすること。この3つが守られてはじめて、監視AIは安心して任せられる見張り役になります。
そして、守られる側の私たちにもできることがあります。混雑の目安を知り、出かける前に公式のルールを確かめ、怪しい広告はAIに見せる。街のAIと、あなたの手元のAI。この2つがそろったとき、ハロウィンの夜はいちばん安全になるはずです。
11よくある質問
12まとめ
- 梨泰院の危険は「事前に」見えていた。最初の通報は事故の約3時間40分前。通報は11件あり、事故時の密度は1平方メートルあたり10.74人でした。
- 監視AIは「何人か」を数えて危険を段階で判定する。立ち止まった群衆では1平方メートルあたり5人が上限、6人で高リスクが目安です。
- 2026年の梨泰院は、約2,550人とAIの合同体制。カメラや地下鉄の人数などを統合した4段階の混雑指数で判断します。
- ソウル市は群衆検知カメラ1,086台、精度は36%から81%へ。生成AIで状況を読む監視にも挑戦しています。
- AIは偽ショップ作りにも使われる。買う前に広告文をClaudeに見せ、危険なサインを点検しましょう。
AIが街を見守り、あなたは手元のAIで自分を守る。出かける前の5分、Claudeに「混雑の危険な目安」と「今年のルール」を聞いておくだけで、ハロウィンの夜はぐっと安心で楽しいものになります。
13参考リンク
- PLOS ONE「Unraveling the causes of the Seoul Halloween crowd-crush disaster」(英語、2024年7月12日)
- The Korea Times「Police wrap up monthslong probe into Itaewon crush」(英語、2023年1月13日)
- The Korea Times「Yongsan to deploy 2,550 personnel in Itaewon to prevent repeat of Halloween tragedy」(英語、2026年10月19日)
- Seoul Metropolitan Government「Seoul to Pursue a Paradigm Shift in CCTV Monitoring through Context-Aware Generative AI」(英語、2026年2月20日)
- The Asia Business Daily「Seoul to Manage ‘Crowd Density’ With ‘Big Data’」(英語、2026年10月12日)
- G. Keith Still「Crowd Density」(英語)
- 神戸新聞(明石歩道橋事故)
- European Commission AI Act Service Desk「Article 5: Prohibited AI practices」(英語)
- European Commission「AI Act」(英語)
- 警視庁 渋谷警察署「ハロウィーンに伴う渋谷地区における交通対策のお知らせ」
- 日本経済新聞「渋谷区、今年もハロウィーン対策 電動キックボード禁止など安全強化」
- インテリジェンス・デザイン「渋谷駅周辺にAIカメラ100台設置」(2023年6月1日)
- インテージ「ハロウィン 参加者減少も平均費用1.1倍で二極化か」(2025年10月23日)
- 消費者庁「偽の通販サイトに関する注意喚起」(2026年8月4日)
- Microsoft「Cyber Signals Issue 9」(英語、2025年4月16日)
- トレンドマイクロ「生成AIチャットボットの回答から危険サイトへ誘導される事例を確認」(2026年3月30日)
- Claudeヘルプセンター「ウェブ検索の有効化と使用」

