📅 情報の基準日:2026年10月23日(日本時間)
スマホで運転免許証を写して送るだけで、銀行の口座が開ける。そんな便利な仕組みが、いま日本中の銀行から次々に姿を消しています。みずほ銀行は10月19日に、スマホでの口座開設で免許証による本人確認を終了しました。10月23日の朝には「新生銀行」がGoogleの急上昇ワードに入り、話題は広がり続けています。
きっかけは、カーシェア「タイムズカー」からの約160万件もの免許証画像の流出です。そしてその背景には、もう一つの大きな変化があります。生成AIを使えば、本物そっくりの偽の身分証の画像を作れてしまう時代になったことです。この記事では、何が起きているのかを日付順に整理し、ChatGPTなどの画像生成AIと身分証の偽造の関係、銀行がICチップを選んだ理由、そしてあなたが今できる守り方を解説します。
身分証の偽造や、偽造した身分証を使うことは、重い犯罪です。この記事は、被害から身を守るための情報をお伝えするもので、偽造の方法は一切紹介しません。AIで身分証を作ろうとすることは、絶対にしないでください。
- 銀行は、スマホで免許証を写して送る本人確認をやめ、マイナンバーカードのICチップを読み取る方式へ切り替えています。
- 直接のきっかけは、2026年9月のタイムズカーへの不正アクセスで、約160万件の免許証などの画像が流出したことです。
- 金融庁は10月9日、2027年4月の制度の切り替えを待たずに、前倒しで対応するよう金融機関に求めました。
- 2026年6月の調査では、主な画像生成AIの多くが、偽の身分証の画像の作成を止めきれなかったと報告されています。画像の見た目だけで本物か見分けることは、ますます難しくなっています。
- あなたにできる守りは、流出の確認、身に覚えのない契約のチェック、マイナンバーカードの暗証番号を守ることの3つです。
01何が起きているのか? 日付で追う1か月

02きっかけになった「免許証画像160万件の流出」
タイムズカーは、車を借りるときの本人確認のために、会員の免許証の画像を預かっていました。2026年9月25日に不正アクセスが見つかり、9月28日の第2報で、退会した人や手続きの途中の人を含む約660万件のアカウントの情報が取られたことが分かりました。そのうち、運転免許証などの本人確認書類の画像が約160万件含まれていたと報じられています(ScanNetSecurity)。クレジットカードの情報は流出していないと説明されています。
免許証の画像には、氏名、住所、生年月日、顔写真がそろっています。東洋経済オンライン(10月9日)は、セキュリティの専門家が「過去に例がないような2次被害」が起きるおそれを指摘したと伝えています。心配されているのは、流出した画像を使ったなりすましの口座開設やクレジットカードの申し込みです。AQUAでは10月10日に、相次ぐ大手企業への不正アクセスも取り上げています。
03生成AIで「偽の身分証」が作れてしまう現実
流出がこれほど深刻に受け止められている理由の一つが、生成AIの進化です。以前なら、偽の身分証を作るには専門の技術と道具が必要でした。いまは、画像生成AIが本物そっくりの画像を数十秒で描けてしまいます。

AI検出の会社AI or Notが2026年6月に公表した調査では、主な画像生成AI16種に身分証の画像を作らせようとしたところ、75回のうち69回(92%)で安全対策をすり抜けたと報告されています。人の目をだませるほど本物に近い画像を出したのは、Gemini、ChatGPT(画像生成)、Grokなど5つのAIでした。ChatGPTは、一般向けのアプリでは子どもの身分証の作成を断った一方で、開発者向けの窓口(API)では作ってしまったケースがあったとされています。
ただし、この調査はAIの検出の技術を売る会社自身によるもので、数字はその会社の発表です。別の調査(2026年6月、Asia News Network)では、バングラデシュの身分証の改変を頼んだところ、ChatGPTとClaudeは断ったり警告したりすることが多かったと報告されています。AIによって、また頼み方によって、結果は大きく変わるのが実情です。
OpenAIはどう対策している?
OpenAIは利用規約で、詐欺やなりすまし、人をだます目的の偽の書類の作成を禁じています。ChatGPTで作った画像には、AIで作ったことを示す「C2PA」という来歴の情報も付けています。ただし、この情報は専用の道具で調べないと分からず、画像を加工すると消えてしまう場合があります。AIの側の対策だけで偽造を完全に止めるのは難しい。だからこそ、受け取る側の銀行が仕組みを変える必要があったのです。
04顔の本人確認も「ディープフェイク」で狙われる
スマホでの本人確認(eKYC)では、免許証の画像に加えて、自分の顔を写して書類の写真と照らし合わせる方法が広く使われてきました。しかし、AIで作った偽の顔の映像(ディープフェイク)を使えば、この顔の確認もくぐり抜けられるおそれがあると指摘されています。
| 本人確認の方法 | AI時代の弱点 |
|---|---|
| 免許証などを写して送る | 流出した画像や、AIで作った偽の画像を送られるおそれがある |
| 顔を写して書類の写真と照らし合わせる | ディープフェイクの映像で、本人のふりをされるおそれがある |
| マイナンバーカードのICチップを読み取る | カードの中の電子証明書を確かめるため、画像の偽造では突破できない。暗証番号の管理が守りの要になる |
画像や映像は、AIがどんどん本物らしく作れるようになります。見た目で本物かどうかを判断する方法そのものが、限界に近づいているのです。
05銀行がICチップを選んだ理由
マイナンバーカードのICチップには、国が発行する「電子証明書」が入っています。スマホをカードにかざして読み取ると、その電子証明書が本物かどうかを、インターネット越しに確かめられます。これを「公的個人認証(JPKI)」と呼びます(ITmedia Mobile)。
ポイントは、確かめる対象が見た目の画像からカードの中の電子データに変わることです。どれだけ精巧な偽の画像を作っても、電子証明書は作れません。さらに、使うときには本人しか知らない暗証番号が必要です。AIで見た目をまねる攻撃に対して、極めて強い方法だといえます。
国は、2027年4月に犯罪収益移転防止法の施行規則を改め、画像による本人確認を廃止して、ICチップの読み取りに原則として一本化する予定です。金融庁の10月9日の要請は、これを待たずに「できるだけ早く」切り替えるよう求めたものです(Impress Watch)。
| 金融機関 | 状況(10月22日の報道時点) |
|---|---|
| みずほ銀行 | 10月19日に、スマホでの口座開設の免許証による確認を終了 |
| 三菱UFJ銀行・三井住友信託銀行 | すでに廃止 |
| 三井住友銀行 | 近く取りやめる方針 |
| 三菱UFJ信託銀行・りそなホールディングス | 同様の対策を検討中 |
出典:読売新聞オンライン(Yahoo!ニュース、2026年10月22日)
06あなたが今できる守り方
今後は、免許証の画像を送ってもらう本人確認そのものが減っていきます。それでも画像を求められたら、相手が本当に信頼できるサービスかを確かめてから送りましょう。送った画像は、どこかで流出する可能性があると考えておくことが大切です。
家族、とくに高齢の家族を守るために
本人確認の切り替えで戸惑いやすいのが、スマホの操作に慣れていない家族です。「銀行の手続きが変わったので、免許証の写真を送ってください」と言われると、信じてしまう人も少なくありません。今回の切り替えをきっかけに、家族で次の3つを話し合っておくと安心です。
- 銀行やカード会社が、電話やSMSで身分証の画像やマイナンバーカードの暗証番号を聞くことはないと覚えておく
- 手続きの連絡が来たら、その場で答えず、家族に相談するか、通帳やカードに書かれた公式の窓口に自分から電話して確かめる
- マイナンバーカードと暗証番号のメモを、同じ場所にしまわない
会社で本人確認を担当している方へ
銀行に限らず、会員登録やアカウントの開設で、身分証の画像を受け取っている会社は多くあります。今回の流出は、預かった身分証の画像そのものが攻撃の的になることをはっきり示しました。保管している画像は本当に必要か、必要な期間を過ぎたものを消しているかを、この機会に見直すことをおすすめします。2027年4月の制度の切り替えに向けて、ICチップの読み取りへ移る準備も早めに進めておくと安心です。
07AIのプロとしての考察:「見た目の信頼」が終わる時代
AIの導入を支援する立場から見ると、今回の動きは、銀行の手続きの変更にとどまらない、大きな転換点です。私たちは長いあいだ、「写真や書類の見た目」を信頼の根拠にしてきました。生成AIは、その前提を根本から崩しつつあります。
画像生成AIの会社は、偽の身分証を作らせない対策を強めています。それでも、AIの数が増え、誰でも使える開発者向けの窓口がある以上、すべてを防ぐことは現実的に難しいでしょう。だからこそ、信頼の仕組みを「見た目」から「暗号で確かめられるデータ」へ移すことが、最も確実な答えになります。銀行がICチップを選んだのは、AI時代に合わせた合理的な判断だと考えます。
同じ変化は、銀行以外にも広がっていくはずです。AIで作った画像かどうかを示す来歴の情報(C2PA)、電子署名、電子証明書。「本物であることを技術で証明する」仕組みが、これからの社会の土台になります。一人ひとりにとっては、マイナンバーカードの暗証番号のような「自分だけが知っている鍵」を大切に守ることが、AI時代のいちばん身近な防犯になります。
08よくある質問
09まとめ
- 銀行は、免許証を写して送る本人確認をやめ、マイナンバーカードのICチップの読み取りへ切り替えています(みずほは10月19日)。
- きっかけは、タイムズカーから約160万件の免許証などの画像が流出したことです(9月28日公表)。
- 金融庁は10月9日、2027年4月を待たない前倒しを求めました。
- 2026年6月の調査では、主な画像生成AIの多くが偽の身分証の作成を止めきれず、見た目による本人確認は限界に近づいています。
- あなたの守りは、流出の確認、契約のチェック、暗証番号の管理です。
AIが本物そっくりの画像を作れる時代には、「本物であること」を技術で証明する仕組みが欠かせません。少し手間が増える本人確認の切り替えは、あなたの名前を勝手に使われないための大切な一歩です。この機会に、ご自身の情報の守り方を見直してみてください。
参考リンク
- Impress Watch「金融庁、本人確認のICチップ1本化前倒しを要請 免許証情報漏えいで」(2026年10月9日)
- 読売新聞オンライン「運転免許証でのオンライン本人確認、大手金融機関が前倒しで廃止」(Yahoo!ニュース、2026年10月22日)
- ScanNetSecurity「『タイムズカー』への不正アクセス、約160万件の運転免許証画像等の本人確認書類が漏えい」(2026年10月2日)
- 東洋経済オンライン「タイムズカーの免許証画像流出が『銀行』を脅かす理由」(2026年10月9日)
- AI or Not「Synthetic ID Audit」(2026年6月、英語)
- Asia News Network「AI tools tested on Bangladeshi national IDs」(2026年6月、英語)
- ITmedia Mobile「マイナンバーカードの『電子証明書』とは? 安全に本人確認ができる理由」
- ランクナビ トレンド(Googleトレンドの急上昇ワード)