「あの動画、なんで伸びたんだろう」
YouTubeを開いて競合チャンネルをチェックする。再生回数を見て、サムネイルを観察して、動画を再生して構成を分析する。気づけば2時間が経っている。
動画制作の仕事をしていると、この「リサーチ」に膨大な時間を取られる。
クライアントから「最近バズってる動画みたいなの作って」と言われれば、まずトレンドを調べなきゃいけない。競合の新作をチェックして、伸びてる動画の共通点を探って、自分たちの企画に落とし込む。
この作業、正直しんどい。
しんどいけど、サボると企画の質が落ちる。トレンドを外した動画は再生されない。だから毎回、時間をかけてリサーチする。
でも最近、このリサーチ作業を根本から変える技術が出てきた。AIエージェントだ。
AIエージェントとは何か—動画制作者向けに解説
AIエージェントを一言で説明するなら、「自分で考えて動くAI」だ。
ChatGPTのような生成AIは、質問すれば答えてくれる。でも、自分からは動かない。毎回こちらから話しかける必要がある。
エージェントは違う。
「毎朝9時に、競合チャンネルの新着動画をチェックして、再生数が急上昇してるものがあれば報告して」
こう指示しておけば、エージェントは毎朝自動でYouTubeをチェックし、条件に合う動画を見つけたらSlackに通知してくれる。人間が何もしなくても、勝手に動き続ける。
さらに、エージェントは複数のツールを組み合わせて使える。
YouTube APIで動画情報を取得する。Whisperで音声を文字起こしする。LLMで内容を要約する。これらを一連の流れとして、自動で実行できる。
動画制作者にとって、これは「24時間働くリサーチアシスタント」を手に入れるようなものだ。
具体的に何ができるのか—5つの活用シーン
では、AIエージェントは動画制作のリサーチをどう変えるのか。具体的なシーンを見ていこう。
1. 競合チャンネルの自動監視
「あのチャンネル、最近どんな動画出してる?」
この確認作業、手動でやると意外と面倒だ。複数の競合チャンネルを定期的にチェックするとなると、それだけで相当な時間が飛ぶ。
エージェントを使えば、この作業を完全に自動化できる。
監視したいチャンネルを登録しておく。エージェントは定期的にYouTube APIを叩いて新着動画を取得する。「24時間以内にアップされた動画」「再生数が1万回を超えた動画」など、条件を設定しておけば、該当するものだけを通知してくれる。
毎朝、Slackを開くと「昨日の競合動向レポート」が届いている。そんな世界だ。
チャンネルAが新商品レビューを出した。チャンネルBのショート動画が急上昇している。チャンネルCは最近、ハウツー系にシフトしているようだ—。
こうした情報が、自分で調べなくても手に入る。
2. バズ動画の早期発見
動画がバズるかどうかは、初速でだいたいわかる。
公開から数時間で再生数が急増している動画は、その後も伸び続ける可能性が高い。逆に、初速が鈍い動画は、よほどのことがない限り後から伸びることはない。
エージェントは、この「初速」を監視できる。
特定のジャンルやキーワードに関連する動画を定期的にスキャンし、「公開から6時間で再生数が1万回を超えた」「平均の3倍のペースで再生されている」といった条件に合う動画をピックアップする。
つまり、バズが確定する前に、バズりそうな動画を見つけられる。
これができると何が嬉しいか。
トレンドに乗った企画を、競合より早く出せる。「あのネタ、うちもやろうと思ってたのに先越された」という悔しい経験が減る。
3. 動画の構成を自動分析
伸びてる動画には、理由がある。
最初の3秒で視聴者の心を掴むフック。中盤で飽きさせない展開。最後まで見てもらうための仕掛け。これらを分析して、自分の動画に活かしたい。
でも、動画を1本1本見て分析するのは時間がかかる。
エージェントを使えば、この分析を自動化できる。
まず、Whisperで動画の音声を文字起こしする。次に、LLMに「この動画の構成を分析して」と指示する。すると、こんなレポートが返ってくる。
「冒頭0:00-0:03で結論を提示(フック)。0:03-0:30で問題提起と共感。0:30-3:00で具体的な解決策を3つ提示。3:00-3:30でまとめとCTA。全体を通じて、15-20秒ごとにカット割りを変えてテンポを維持。」
これを10本の動画に対して自動で実行すれば、「伸びてる動画の共通パターン」が見えてくる。
4. サムネイル・タイトルの傾向分析
動画の再生回数は、サムネイルとタイトルで8割決まる。
どれだけ中身が良くても、クリックされなければ見てもらえない。だから、競合がどんなサムネイルとタイトルで成果を出しているか、常にチェックする必要がある。
エージェントは、この分析も自動化できる。
競合チャンネルの直近50本の動画から、再生数TOP10とワースト10を抽出する。それぞれのサムネイルとタイトルをLLMに分析させる。
「TOP10の共通点:数字を含むタイトルが7本。サムネイルに人物の顔があるものが8本。赤と黄色のコントラストが目立つ。疑問形のタイトルが6本。」
「ワースト10の共通点:タイトルが長すぎる(平均28文字)。サムネイルの文字が小さくて読みにくい。具体的なベネフィットが不明確。」
こうしたデータがあれば、サムネイルとタイトルの打率が上がる。
5. 過去の参考動画を瞬時に検索
「前に見た、あの飲食店のプロモーション動画、どこだっけ…」
過去に見つけた良い参考動画を、いざ使おうとしたときに見つけられない。ブックマークしたはずなのに、どこに保存したか忘れた。これも動画制作あるあるだ。
ここでRAGが活躍する。
過去に分析した動画のデータ(URL、文字起こし、分析レポート)をベクトルデータベースに格納しておく。「飲食店のプロモーションで、料理のシズル感を強調した動画」と検索すれば、条件に合う動画が瞬時にヒットする。
自分だけの「動画リサーチデータベース」ができるわけだ。
チームで共有すれば、さらに価値が上がる。誰かが見つけた良い参考動画を、チーム全員が検索できる。「あの動画、誰がブックマークしてたっけ」と聞いて回る必要がなくなる。
技術的な仕組み—どう実現するか
ここまで読んで、「で、どうやって作るの?」と思った人もいるだろう。技術的な仕組みを簡単に解説しておく。
全体のアーキテクチャ
システムの全体像はこうなる。
AIエージェント(司令塔)がいて、その下に複数のツールがぶら下がっている。エージェントは状況に応じて、必要なツールを呼び出して使う。
・YouTube Data API:動画情報の取得、チャンネル情報の取得
・Whisper API:音声の文字起こし
・LLM(GPT-4、Claude等):分析、要約、レポート生成
・ベクトルDB(Pinecone、Qdrant等):過去データの保存と検索
・Slack/Discord API:通知の送信
これらを、LangChainやCrewAIといったエージェントフレームワークで繋ぎ合わせる。
定期実行の仕組み
「毎朝9時に競合チェック」を実現するには、定期実行の仕組みが必要だ。
シンプルなのは、cronやCloud Schedulerで定期的にスクリプトを実行する方法。AWSならLambda + EventBridge、GCPならCloud Functions + Cloud Schedulerの組み合わせが定番だ。
最近は、エージェント専用のホスティングサービスも出てきている。AgentOpsやLangSmithを使えば、エージェントのデプロイから監視まで一元管理できる。
コスト感
気になるのはコストだろう。
YouTube Data APIは、1日あたり10,000クォータまで無料。一般的な利用なら、これで十分足りる。
Whisperは、OpenAI APIを使う場合、1分あたり約0.6円。10分の動画なら6円。1日10本分析しても60円だ。
LLMの利用料は、モデルによって異なる。GPT-4oなら、1回の分析で数円〜数十円程度。
ベクトルDBは、Pineconeの無料プランでスタートできる。データ量が増えてきたら有料プランに移行すればいい。
トータルで、月額数千円〜数万円程度で運用できる。人間のリサーチャーを雇うことを考えれば、圧倒的に安い。
実際に導入するとどう変わるか
このシステムを導入すると、動画制作のワークフローがどう変わるか。具体的なイメージを描いてみよう。
朝のルーティン
出社してSlackを開くと、「今朝のトレンドレポート」が届いている。
「昨日公開された動画の中で、初速が好調なものを5本ピックアップしました。ジャンル別の傾向としては、ハウツー系が好調、Vlog系はやや低調です。注目は〇〇チャンネルの新作で、公開12時間で10万再生を突破しています。」
レポートには、各動画へのリンクと、サムネイル・タイトルの分析コメントが添えられている。
これを読むだけで、昨日の動向が把握できる。実際に動画を見るのは、気になったものだけでいい。
企画会議
クライアントから「Z世代向けの商品プロモーション動画を作りたい」という依頼が来た。
エージェントに「Z世代向け商品プロモーションで、直近1ヶ月に再生数が多かった動画を10本分析して」と指示する。
数分後、レポートが返ってくる。
「Z世代向けプロモーションのトレンド:1)縦型ショート動画が主流、2)最初の1秒でインパクトを出す、3)BGMはK-POPまたはトレンドの洋楽、4)テロップは最小限でビジュアル重視、5)商品の機能よりも「映え」や「体験」を訴求…」
このレポートをベースに企画会議を進められる。「なんとなくこうじゃない?」ではなく、データに基づいた議論ができる。
過去案件の参照
「前に作った飲食店の動画、良い感じだったよね。あのテイストで今回もお願い」
クライアントからこう言われたとき、すぐに該当の動画と企画書を引っ張り出せる。
「飲食店 プロモーション シズル感」で検索すれば、過去に作った動画のリストが出てくる。それぞれの企画書、絵コンテ、編集のポイントメモまで紐づいている。
新人ディレクターでも、過去の資産を活用して質の高い企画が作れる。
導入のステップ
「面白そうだけど、どこから始めればいいの?」
そう思った人向けに、導入のステップを整理しておく。
Step 1:監視対象を決める
まず、どのチャンネル・どのジャンルを監視するか決める。
競合チャンネルを5〜10個リストアップする。自社と同じジャンルで、参考にしたいチャンネルだ。あまり多すぎると、情報過多になって逆に非効率になる。
Step 2:通知の仕組みを作る
最初は、シンプルに「新着動画の通知」から始めるといい。
監視対象チャンネルに新しい動画がアップされたら、Slackに通知する。タイトル、サムネイル、URLが届くだけでも、毎日チェックする手間が省ける。
これだけなら、YouTube APIとSlack Webhookを繋ぐだけで実現できる。ノーコードツールのZapierやMakeを使えば、プログラミング不要で構築可能だ。
Step 3:分析機能を追加
通知だけでは物足りなくなってきたら、分析機能を追加する。
新着動画を自動で文字起こしして、構成を分析する。サムネイルとタイトルのパターンを抽出する。この段階になると、Whisper APIとLLMの連携が必要になる。
Step 4:データベース化
最後に、分析結果をデータベースに蓄積する仕組みを作る。
過去に分析した動画をベクトルDBに格納し、自然言語で検索できるようにする。これがRAGの部分だ。
ここまで来ると、「自分だけの動画リサーチAI」が完成する。
注意点
導入にあたって、いくつか注意点がある。
著作権への配慮
競合の動画を分析することは問題ないが、そのままパクるのはNGだ。
分析で得た知見を「参考」にするのはいい。でも、構成やセリフをそのまま真似するのは著作権侵害になりうる。エージェントが効率化するのはあくまで「リサーチ」であって、クリエイティブの部分は人間がオリジナルで作る必要がある。
データの鮮度
YouTubeのトレンドは、日々変化する。
半年前に有効だった施策が、今は通用しないこともある。エージェントが過去データを参照するとき、「いつのデータか」を意識することが大切だ。古いデータに引っ張られて、時代遅れの企画を作ってしまっては本末転倒だ。
最後は人間の判断
エージェントは「情報収集」と「分析」を自動化してくれる。でも、最終的な企画の判断は人間がやるべきだ。
「このデータを見ると、こういう動画が伸びそうだ」という示唆は得られる。でも、それをそのまま採用するか、あえて逆張りするか、クライアントの意向とどうバランスを取るか—。こうした判断は、人間のクリエイターにしかできない。
エージェントは「武器」であって、「代替」ではない。
まとめ—リサーチを制する者が動画を制す
動画制作の世界で、リサーチの重要性は増している。
トレンドの移り変わりは速い。昨日までバズっていたフォーマットが、今日はもう古い。競合は増え続け、視聴者の目は肥えている。
この環境で勝ち残るには、リサーチの質と速度を上げるしかない。
AIエージェントは、そのための最強の武器になる。
24時間休まず競合を監視し、バズの予兆を捉え、動画の構成を分析し、過去の知見を瞬時に引き出す。人間が何時間もかけていた作業を、数分で終わらせてくれる。
浮いた時間は、本来やるべきことに使える。クリエイティブを磨く。クライアントと深く対話する。新しい表現に挑戦する。
リサーチは機械に任せて、人間は人間にしかできないことに集中する。これが、これからの動画制作のスタンダードになっていく。
まずは小さく始めてみてほしい。競合チャンネルの新着通知から。それだけでも、毎日の仕事が少し楽になるはずだ。
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