2024年5月には4.0%だった企業のRAG活用率が、同年12月には22.1%に——わずか7ヶ月で5倍以上に急増しました。
エクサウィザーズの調査が示すこの数字は、RAGが「実験段階」から「実務導入段階」に移行したことを示しています。製造業、金融、医療、法務、行政——業界を問わず、RAGの導入が加速しています。
本記事では、各業界の具体的なRAG活用事例を12社厳選してご紹介します。導入効果の数字や成功のポイントも解説しますので、自社での導入検討にぜひお役立てください。
製造業のRAG活用事例
製造業では、技術継承や品質管理、ナレッジ共有にRAGが活用されています。2025年はさらに普及が加速すると予測されています。
事例1:AGC(旧旭硝子)
導入概要
| 企業 | AGC株式会社(素材メーカー) |
| 導入時期 | 2024年8月 |
| 活用領域 | 技術情報検索、トラブルシューティング |
AGCは、すでに全社導入していた「ChatAGC」に新機能を追加する形でRAGを導入しました。
活用内容
- 過去の開発・設計に関する技術情報の検索
- 製造時の過去トラブル情報の参照
- ユーザー権限に応じたアクセス制御
ポイント
権限管理機能により、ユーザーは自身の権限範囲内でのみ社内データにアクセス可能。セキュリティを担保しながらナレッジ活用を実現しています。
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事例2:中外製薬
導入概要
| 企業 | 中外製薬株式会社(製薬メーカー) |
| 活用領域 | SOP(標準作業手順書)検索、プロジェクト事例検索 |
中外製薬では、自社開発した「Chugai AI Assistant」にRAGを適用。40点以上ある標準作業手順書(SOP)から必要な情報を効率的に検索できるシステムを構築しました。
導入効果
- 手順書検索時間の大幅短縮
- 過去プロジェクト事例の効率的な活用
- 2024年11月から全社利用開始
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事例3:大手自動車部品メーカー
導入概要
| 業種 | 自動車部品製造 |
| 活用領域 | ナレッジベース構築、技術継承 |
数十年分のマニュアル・図面・過去事例をデータベース化し、RAGナレッジベースを構築。
活用シーン
- 「この異音が出た時はどうする?」→ 過去事例から最適な対処法を提示
- 「メンテナンス手順を教えて」→ 関連マニュアルを要約して回答
- 非正規社員への技術共有にも活用
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金融・銀行業のRAG活用事例
金融業界はセキュリティ要件が厳しいため、Azure OpenAI Serviceなどエンタープライズ向け環境でのRAG導入が進んでいます。日本銀行の調査では、金融機関の6割が生成AIを導入済みまたは試行中です。
事例4:三井住友カード
導入概要
| 企業 | 三井住友カード株式会社 |
| 導入時期 | 2024年6月 |
| 活用領域 | コンタクトセンター問い合わせ対応 |
月間50万件を超える問い合わせに対応するため、RAGを活用したAIシステムを構築。メール回答業務から本番運用を開始しました。
導入効果
- 顧客対応時間:最大60%短縮を見込む
- 回答草案の自動生成でオペレーター負担を軽減
- 社内データを検索して正確な回答を生成
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事例5:宮崎銀行
導入概要
| 企業 | 株式会社宮崎銀行 |
| 活用領域 | 融資稟議書作成 |
融資稟議書の作成業務に生成AIを導入。
導入効果
- 作成時間:40分 → 2〜3分(95%削減)
- 行員の業務負担を大幅に軽減
- より付加価値の高い業務に時間を割けるように
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事例6:七十七銀行・呉信用金庫
導入効果まとめ
| 七十七銀行 | 年間32,000時間の業務効率化を達成 |
| 呉信用金庫 | 社内問い合わせ対応時間を約4,080時間削減 |
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医療・ヘルスケアのRAG活用事例
医療分野では、最新の医学情報や院内ナレッジを活用した臨床判断支援にRAGが活躍しています。
事例7:NYU Langone Health(米国)
導入概要
| 機関 | NYU Langone Health(ニューヨーク) |
| 活用領域 | 研修医教育、臨床判断支援 |
次世代の医師育成を促進するエージェンティックAIを導入。
システムの仕組み
- 毎晩、電子カルテ(EHR)を自動処理
- 関連する研究論文・診断のヒント・背景情報を抽出
- 翌朝、各研修医にパーソナライズされた形でメール配信
膨大な医療データをRAGシステムに統合し、自律的なAIエージェントが情報検索を担う先進的な仕組みです。
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事例8:Apollo 24|7(インド)
導入概要
| 企業 | Apollo 24|7(インド最大級のデジタルヘルスケアプラットフォーム) |
| 活用領域 | 臨床インテリジェンスエンジン(CIE) |
プライマリケア、疾患管理、在宅医療における医療従事者の支援を目的とした臨床インテリジェンスエンジンを構築。
活用内容
- 匿名化された臨床ナレッジベースをRAGで活用
- 退院時の臨床記録をナレッジベースとして利用
- 医療従事者の意思決定を支援
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事例9:くすりの窓口
導入概要
| 企業 | 株式会社くすりの窓口(ヘルステック企業) |
| 活用領域 | 社内向けAIチャットボット |
国内最大級の薬局・ドラッグストア検索予約サイト運営企業が、RAG技術を活用した生成AIチャットボットを導入。
活用内容
- サービス操作マニュアルを集約した社内向けAIチャットボット
- お客様からの質問に対して従業員が精度の高い回答を取得
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法務・リーガルテックのRAG活用事例
法務分野では、契約書検索や法律相談対応にRAGが活用されています。
事例10:LegalOn Cloud
導入概要
| サービス | LegalOn Cloud(AI法務プラットフォーム) |
| 提供企業 | 株式会社LegalOn Technologies |
「LegalOnアシスタント(β版)」でRAG技術を活用。
機能
- アップロードした自社の契約書データを検索可能
- 表示中の契約書以外の情報についても質問・回答が可能
- 検索結果はAIによって要約表示
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事例11:弁護士ドットコム
導入概要
| 企業 | 弁護士ドットコム株式会社 |
| 活用領域 | 法律相談対応 |
RAG方式を採用し、ユーザーの問い合わせに法律の専門知識を適切に付加したプロンプトを生成。
解決した課題
「ユーザーに法律知識がないと、そもそも『正しい質問』ができない」という問題を克服。AIが質問を補完し、適切な法的回答を生成できるようになりました。
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自治体・行政のRAG活用事例
自治体でもRAG導入が急速に進んでいます。職員の業務効率化と住民サービス向上の両立が期待されています。
事例12:郡山市・静岡県・横浜市
導入自治体と効果
| 自治体 | 導入時期 | 効果 |
|---|---|---|
| 郡山市 | 2024年10月 | 143名で289.2時間削減 |
| 静岡県 | 2024年12月 | 本庁全職員に導入 |
| 横浜市 | 2024年11月〜 | RAG実証開始 |
主な活用領域
- FAQ・問い合わせ対応マニュアルの作成
- 法令・規定・ガイドラインの検索・要約
- 誤字チェックやガイドライン遵守の確認
- データ分析・文書作成
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業界別RAG導入のポイントまとめ
| 業界 | 主な活用領域 | 導入のポイント |
|---|---|---|
| 製造業 | 技術継承、トラブル対応 | 暗黙知のデジタル化が成功の鍵 |
| 金融・銀行 | 問い合わせ対応、稟議書作成 | セキュリティ・コンプライアンス重視 |
| 医療 | 臨床判断支援、マニュアル検索 | 最新情報への対応、出典明示 |
| 法務 | 契約書検索、法律相談 | 法令改正への即時対応 |
| 自治体 | 業務効率化、住民対応 | LGWAN対応、権限管理 |
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RAG導入を成功させるには
本記事で紹介したように、RAGはあらゆる業界で導入効果を発揮しています。しかし、成功するためには業界特有の要件を理解し、適切な設計・実装を行う必要があります。
業界別RAG導入のご相談なら
AQUA合同会社は、製造業から金融、医療、法務まで、幅広い業界でのRAG導入実績があります。
- 業界特有の要件を理解した設計
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まとめ:RAGは全業界で活用可能
本記事のポイントをまとめます。
☑️ 2024年12月時点で企業の22.1%がRAGを業務活用(5月比5倍以上)
☑️ 製造業:技術継承・ナレッジ共有で属人化を解消
☑️ 金融・銀行:問い合わせ対応60%短縮、稟議書作成95%削減の事例も
☑️ 医療:臨床判断支援、最新医学情報の活用で精度向上
☑️ 法務:契約書検索、法令改正への即時対応が可能に
☑️ 自治体:職員143名で289時間削減の実績(郡山市)
☑️ 成功の鍵:業界特有の要件理解+適切な設計・実装
RAGは「特定の業界だけのもの」ではありません。社内に蓄積されたナレッジを活用したい、問い合わせ対応を効率化したい、属人化を解消したい——こうした課題を持つすべての企業にとって、RAGは有効なソリューションです。
本記事の事例を参考に、ぜひ自社でのRAG導入を検討してみてください。